<空へ贈る言葉>

執筆:2005年05月13日


夜の間に
冷たい雨が大地を叩き
それでも夜が明け
湿った大気の中を
朝の光がきらきらと浸したとき
ああ雨がやんだと
冬が明けたぞと
命達がキラキラと囁きあうとき

地中で白い者達が目覚める

地中に埋もれて
もう空を見ることもなく
朽ち果てるばかりだと思っていた者達が
白い者達が、ふと夢から覚める
土に染み入る冷たい雨に浸されていたのだ
どんなにか冷たい夢だったろう

そして不思議なことだが
誰に教えられたわけでもないのだが
もう諦めていたのだが
ふと、思い出すのだ

空に贈る言葉を

白い皮が破れ
白い種は虫の国で朽ち果てるが
種は若芽を空へと贈る
冷たい大地の底で思い出した
それが大空へ贈る言葉だ
白い種は地の底で腐るだろうが
空へ贈った言葉は、春の日に地上に届く

そして芽吹く
緑の葉は萌ゆる
真っすぐな茎は
天空を目指して伸び上がる
大地の底で冷たく逝った者達の
美しい言葉は春の光りに包まれて輝く
小鳥たちの歌と響き合い
小川の水のきらめきや
やわらかな春雨のあとの虹や
ひらひらと飛ぶ蝶の羽や
大気に満ちた囁きに届く

そして花咲く
美しい花をひらく
春の光の空の最中に
美しい言葉を高らかに捧げる
高い御空の彼方へと贈る
真実と美と愛の言葉を福音の音(ね)を祈りを贈る
誰もがこの花を愛でるに違いない


春は去り
命達は新しい命を育むのに多忙
風は野分きの当来を告げる
花は散る
花弁は風に舞い散華する
土に埋もれ、忘れ去られる
一瞬の
それが地の底で逝った者達の言葉だ

花を愛でよう
それは、美しいから