<小鳥の歌>

執筆:2005年04月20日


包丁でうっかり指を切った日 冬の夢を見た
冬の夢の中で 僕は小鳥を胸に抱いていた

 どうも寝付きの悪かった夜
 僕は冬の夢を見た
 夢の中では冷たい雨が降り続いていて
 僕は鳥を胸に抱いて傘をさしている
 小鳥の羽を撫でていると
 僕は寒くない
 小鳥の瞳を見つめていると
 僕はどこへも行けない

羽に傷を負って南に旅立てなかった鳥を胸に抱き
僕はただ、呆然と冷たい雨に染まっていくばかりだ

 冬の夢の中では
 冷たい雨が降り続いている
 冬の夢の中では
 冷気は濡れて肌を伝い落ちる
 冷たい雨の色に染まったら
 誰かが綺麗と言ってくれるかな
 冷たい雨の色に染まっていけば
 綺麗なものを 見せてくれるかな

胸の中で小鳥が身じろぎして ふと驚いて夢から覚めた
誰もいない深夜の闇の中で 僕は呆然としている
胸を急に遠のいていく温もりと
南へ去っていく はばたき──?

 冬の夢の中で
 僕は小鳥の温もりを胸に抱き続けていた
 小鳥の温もりを胸に抱いて
 やがてブルーから透明になってしまうだろう
 でも冬の雨はあまりに冷たい
 小鳥の温もりは
 いつか奪われていくだろう
 冬に狂い咲いた花は
 実りもなく枯れゆくしかないだろう
 冷たい雨が降り続くなかで
 気持ちを言葉にできないうちに
 小鳥は死んでしまうだろう
 花は枯れてしまうだろう

冬の冷たい雨に打たれて 小鳥が死んでしまっても
僕は朝を越えて生きていけるかな
冬の冷たい雨に打たれて 僕が死んでしまっても
小鳥は冬を越えて南へ飛び立てるかな

輝く陽の光が東の彼方から降り注いで
雪解け水にしめった土から若芽達は芽吹き
やがて冬を知らぬ若い花々があでやかに匂い立つ頃に
僕は二度目の夏を夢見ることができるのかな
小鳥は南へ向かって翔び立つことができるのかな

金色の光に包まれて
僕たちはもういちど青い空を見られるかな
空の下を走れるかな

 冬の夢の中では
 冷たい雨が降り続いている
 冬の夢の中では
 冷気は濡れて肌を伝い落ちる
 冷気は心にしたたり落ちる

誰もいない深夜の闇の中で
僕は呆然と去っていった物音に耳を澄ませている
携帯を見れば午前の三時
バックライトが眩しすぎる

 冷たい雨に打たれて
 僕が誰も知らぬ間に死んでいったとしても
 幸せな思い出を胸に抱いて眠りにつくだろう
 せめて南へ旅立つ小鳥の姿を見送ることができたなら