執筆:2004年11月24日
広い黒い海を
定めに従い飛び続ける
深海から沸きあがった
腐肉のような魚をついばみ
風雨に耐え
嵐に沈み行く船の
最後の祈りの聞き手も勤めた
そして鳥はいま
夢を見ている
次に目覚めたとき
鳥は人となり
違う空を見つめているはず
定めの地に着いたのか、どうなのか
鳥はいま夢を見ている
暖かい夢に包まれている
そして次に目覚めたとき
鳥は人となり薄紫の空を生きている
ときどき頬を伝う涙は
遠い遠い空の涙
眠りの中に夢見る空は
遠い遠い記憶の空
夢の彼方で瞬く光は
遠い遠い、遠い煌めき
だから鳥よ
古い思い出は忘れるときだ
そして目覚めたとき
鳥よ、人となり違う空を生きるはずだ
遠すぎた煌めき、さんざめきは忘れ
人となり土を喰い
生暖かい薄紫の空を見つめるはずだ
やがて暮れてゆく空を
立ちつくして不器用な手の中に握るはずだ
さあ、鳥よ新しいくすんだ空を胸に抱け
嵐の空を飛ぶ必要はない
遠い遠い記憶を手繰りながら
鳥はいま暖かい夢を見ている
遠い遠い空は忘れ
鳥はやがて新しい空を抱き人となる
定めの地に着いたのかどうなのか
迷いもやがて夢に紛れるだろう
翼はなくし不器用な手を持つだろう
そうして夕暮れの迫るまで
暖かいくすんだ空を見つめるだろう
遠い煌めきは暖かい夢の彼方
忘れてしまうのだろう。すべて――
最後の迷いの夢の空を
鳥はいま、途方に暮れたように
夕暮れに向けて、飛び続けているようだ