<夜想>

執筆:2004年9月11日


電灯が切れると今でも夜は空間を支配する
太古の闇の最後の末裔

いま思うことの第一は
やはり死ぬことなのですが
いまいち死ぬという緊張感がありません
要するに概念としての「死」を
弄んでいるだけのようなのです

思い出すことは
過去のことばかり
考え続けることは
過去のこと

ある過去の日
私は広い草原を歩いていたはずです
そして空を見つめて
驚くほど流れの早い雲を見つめて
何か胸騒ぎを感じていたのでしょう
光と影が白銅色の空で混ざって
大きな力の直中にいる自分を感じていた

おとつい野分の前の雲の対流の中に
私の頭の中に渦巻いていたことは
過去のことばかり

悲しみ迸る度ごとに
私は新しい創造に携わる
悲しみの鑿はいつでも私の心を
より深くより広く掘り進み血みどろの宝石を掘り当てる
私の体は搾取される大地
きっと掘れば掘るほどに輝く石を産する

それがどうしたことか
今夜悲しみの鑿は虚しく宙を斬るようだ
掘り尽くしたとでもいうのか?

私の体は悲しみの大地
きっと輝く宝石を産する
私は悲しみの大地を彷徨うばかり
輝く朝に約束の地に辿り着けるはず
このまま明日の朝を待ちましょう
きっと輝く朝日の中で
私は初めて小鳥のさえずりを聞くはず
そして私は静かに目を閉じ
約束の地で生まれ変わるはず

闇が空間を飲み込み
私の夜の顔が鏡の上で揺れる
いま思うことの第一は
やはり死ぬことなのですが