秋になると、大学の構内は紅葉した木々で美しく彩られる。恐らく、紅葉が
美しくなるように樹を選んであるのだろう。ふと、樹を選んだ人の、学生がよ
りよい環境で生活できるようにとの心遣いを感じて優しい気持ちになる。とき
として自分が孤独であるように感じられることもあるが、いつでも、どこでも、
善意の人はいるものだ。もっとも、その善意の人になかなか出会えず、孤独な
日々が続くこともあるが。
よく晴れた日には、思わず吐息を漏らすくらい木葉が美しく輝く。銀杏の金
色に輝く枝を見上げて、しばし立ち止まりたくなる。春の夢想的な花々、初夏
の生まれたばかりの若葉の輝きや、夏のむせ返るように豊穣な葉の繁り、冬の
張り詰めた瞑想的な枝のたたずまいと共に、秋の紅葉の華やかさは私の内面に
確たるイメージを形成している。美しい詩に触れれば、いつでもイメージがよ
みがえる。イメージとリンクした言葉は生きている。
顔を上げて歩いていれば、美しい枝が目に留まる。が、うつむいて歩いてい
ても、秋の別な顔に出会える。道ばたに積もった木葉たちだ。少し色褪せて渋
みの増した、微妙に色合いの異なる落ち葉が積もって、道の片隅に豊かな空間
を生み出している。暖かい色調の自然色が深い奥行きをもって重なる様は、子
供の頃のクリスマスのイメージと何故か重なる。絵本に描かれていた暖炉のレ
ンガと色が似ているのだろうか。
耳元を冷たい風が吹き抜け、思わずコートの襟を立てる。秋はある種の寂し
さを持っているが、貧しくはなく、飽くまで豊かだ。コートに顔をうずめ、目
を細めて足を速めれば、心の内に微かに煌めく思い出、僅かに揺らぐ感情、陰
影に富んだ重層的なイメージが自然と浮かび上がってくる。秋はまるで、豊か
な香りと強い苦みを持つエスプレッソのようだ。
秋が深まる頃にはクリスマスも近づいて、街は華やかになってくる。秋は洗
練された都会的なイメージと相性がいい。天気のいい日には気の合う友人と街
に出かけて、喫茶店で時間を過ごしてみてはどうだろうか。共に時間を過ごし
た友人というのは、ある時は輝く日々の豊かな香りを運んでくれるし、またあ
る時には取り返しのつかない過去の鋭い苦みを思いださせてくれる。言葉はあ
まり必要ない。ここでは饒舌は無粋だ。ただ、ある雰囲気を共有できれば、忙
しい日々の間に、まるで路傍に溜まった落ち葉のように豊穣な時間を持てるの
ではないだろうか。
窓の向こうに銀杏並木と通行人を眺めながら、秋を味わってみてはどうだろ
うか。