VERTICAL HORIZON



Horizon───
水平線にしろ地平線にしろ、
それはフロンティアの象徴であり、
我々が行くべき未知の世界へと続く、一つの可能性だ。

Vertical Horizon───
都会のビルに囲まれれば、
水平線も地平線も見えはしない。
垂直に切り立ったビルの壁面が立ちはだかるばかりだ。

Vertical Horizon───
ビルの壁面こそが空と我々の大地を区切る、
我々の地平線に他ならない。
我々の地平線は垂直に立ち上がる。

Vertical Horizon───
地平線は垂直に切り立って行くことも叶わず、
ビルに閉じこめられた我々に、
目指すべきフロンティアは存在しないのか。

Vertical Horizon───
我々の行くべきフロンティアはそこにあり、
ビルの間にうごめく我々の、
目指す地平線は垂直に切り立った壁面にこそあるのか。

Vertical Horizon───
さて私のHorizonは、と、
コンクリートの壁面を走るひびに指をそえ、
そっとなぞって沈黙する。
見上げると緑色のトカゲが張り付いて、
火のような赤い舌を、するりと得意げに閃かせる。

Vertical Horizon───
彼のHorizonは確かにここにある。
さて私のHorizonは、と、
コンクリートの壁面を走るひびに指をそえ、
そっとなぞって沈黙する。





都市の交差点 薄曇りの朝 夏日の七時半

 光 ──わずかに橙色を帯びる
空 気──湿気と排ガスでかすむ

  ───夢を見ているようでもある。

ほら、あのくすんだ色の
        マンションの窓
場違いなレースのカーテン
        ピンク色の花の鉢
死人よりも無表情な
        この巨大なビルディングにも
夢見るということが、あるのでしょう。





昨日の月は赤くって、何かを思っているようでした。
なぜ思うのかと不思議に思い、視線を下に移しました。
街灯が一つだけ、月の真下で明滅しています。
ああ、なるほど。月は街灯の話を聞いていたのです。

町は黒い夜の闇に
ぽつりぽつりと浮かぶ明かりです。
マンションの灯りも看板の光も動かない。
時々信号機が点滅し
赤くなったり青くなったりするばかり。
そのなかで、
街灯だけが、静かにささやいています。

なにを?昼間見たことを、昼間聞いた話を。
他愛ないおしゃべりを?そう、他愛ないおしゃべりを。
一生懸命話すのを、月は静かに聞いています。

皆が寝静まったあとで、街灯だけが月にささやく。
他愛ないおしゃべりを?そう、他愛ないおしゃべりを。
一生懸命話すのを、月は静かに聞いています。

音のない夜の端で、静かに。そして楽しげに。
他愛ないおしゃべりを?そう、一生懸命に。

耳を傾ける月は赤かった。そう、何かを思っているようでした。


今日、もう街灯は瞬かず、
月は白々と輝いています。