形式上は『Queen Mab』と同じブランク・ヴァースで書かれており、
高橋規矩氏はこの詩をもって合理主義者シェリーから詩人シェリーへの
転身が見られるという。(*28)この後に見る『The Revolt of Islam』
『Prometheus Unbound』に通じる愛を重視する立場が、ここに姿を現す。
『Queen Mab』と比較すれば、革命の主題は影を潜め、自然/不自然
という点にあった問題関心は「愛」という主題に移る。必然=自然は
『QueenMab』におけるそれのようには称揚されない。この問題関心・
価値判断の移行と革命の主題が結びつき、『The Revolt of Islam』
『Prometheus Unbound』という作品が編まれてゆく。ただしこれら
二作品において見られるほどの詳細な理論化は未だ行われていない。逆に
言えば1815年の『Alastor』執筆から1818年『Prometheus Unbound』
執筆までの3年ほどで急速に理論構築を進めたという事であり、哲学青年
としての素養と二十代になってなお衰えない若々しい成長力を示している
と言えよう。既に述べたが、古代の廃墟を「高邁な思想」と結びつけ賞賛
する点(*29)は『Queen Mab』と価値判断を異にする。このような価値
判断の変化も「愛」への着目と無関係ではないであろう。すなわち理性・
自然を賞賛した『Queen Mab』から愛の必要性を述べる『Alastor』への
転換には、シェリーが少しでも理性的でないと思われるものを全て斬り捨
てる、若者にありがちな理性偏重の姿勢を改め、情緒的発達を示し始めた
証拠と考える事ができる。そして情緒面に着目すると同時に、ただの虚し
い石塊に過去の偉大な文明の影を見出すようになったと考えることは出来
ないだろうか。手紙など他の資料をも検討すれば、より丁寧にシェリーの
人格発達を読み解くことが出来よう。
『Alastor』は死(眠り)を通じて理想との合一を目指す。(*30)主
人公の詩人はほとんど全編を通じて周囲に多くの注意を払わず、孤独であ
り周囲の社会は視野に入ってこない。ここで扱う他の三作品とは、いささ
か毛色の異なる作品といえよう。