※ここではシェイクスピアの作品のうち、新潮文庫に収録された作
品を中心に、同文庫の「解題」「解説」を参考に製作年代、当時の
出版事情と定本、製作の種本となった他の作品、および各作品の雰
囲気、テーマ、込められた思想などについてまとめる。
26. 『コリオレイナス』『アセンズのタイモン』
(1) 概観
『コリオレイナス』
勇猛果敢なローマの将軍、ケイヤス・マーシャス(敵地コリオライ
での獅子奮迅の戦いぶりを賞して「コリオレイナス」の名を贈られ
る)の物語である。彼は気位の高さからローマ市民に対して謙虚な
姿勢を示すことが出来ず、執政官にまで任命されながら市民の反発
を買って追放の憂き目にあう。そこで宿敵オフィーディアスのいる
ヴォルサイ人のもとへ身を寄せ、ローマへの復讐を図る。オフィー
ディアスは彼と和解したが、彼の登場でオフィーディアスの影は薄
くなってしまう。そこへコリオレイナスの家族が、ローマからコリ
オレイナスを説得しに訪れる。コリオレイナスは説得され、オフィー
ディアスもコリオレイナスのローマ帰還に賛成した。ところがオ
フィーディアスは機会を見計らって、コリオレイナスを裏切り者と
して弾劾し、ローマに帰さず刺殺してしまう。物語はコリオレイナ
スの死を悲しんで終わる。
『アセンズのタイモン』
アテネ(アセンズ)の貴族タイモンは莫大な財産を気前よく振る舞う
人だった。少しでも金銭で困っている人には金を振る舞い、贈り物は
倍にして返した。それにつけ込んで金品をかすめ取る人々も多かった。
やがてタイモンは破産する。そこでタイモンは友人の貴族達に金を
借りようとするが、使いの者はすげなく拒否されたり、小銭を渡さ
れて「自分に会えなかったことにしてくれ」などと頼まれたりした。
しかも前に約束した金を取り立てに使いの者をよこす貴族もいる。
タイモンは裏切りに激怒して貴族達を呪う。
アテネを呪い、アテネを去って洞窟に引きこもったタイモン。自分の
召使い達は残った金をやって解雇し、どうしてもタイモンの側にいた
いという執事も結局追い払ってしまった。アテネに進軍してきた将軍
アルシバイアディーズはタイモンと出会ってその実情を知り、力にな
りたいと申し出るが、やはりタイモンは冷たくあしらった。アルシバ
イアディーズの進軍を防ぐためにアテネの貴族はタイモンに戻ってく
れるように頼むが、そんなものは意にも介さない。
結局アテネはアルシバイアディーズと和解し、アルシバイアディーズ
は己の敵とタイモンの敵のみを処刑するという条件で和解に応じる。
しかしタイモンはこの時すでに死に、墓には呪いの言葉が墓碑銘とし
て彫ってあった。アルシバイアディーズは墓碑銘を読み上げ、タイモ
ンの高潔を讃える。
(2) 作劇年代
共に1607年〜1608年。
(5) 雰囲気・テーマ・思想
愛すべき人が不遇のうちに死を遂げる点ではよく似た作品である。