※ここではシェイクスピアの作品のうち、新潮文庫に収録された作
品を中心に、同文庫の「解題」「解説」を参考に製作年代、当時の
出版事情と定本、製作の種本となった他の作品、および各作品の雰
囲気、テーマ、込められた思想などについてまとめる。
7. 『ヴェローナの二紳士』
(1) 概観
これもシェイクスピア作品中、触れられることが少ない作品の一つ
であろう。互いに親友であるヴェロナの二人の若者、ヴァランタイン
とプローチャスは一人の女性シルヴィアをめぐって仲違いをし、シル
ヴィアとプローチャスの元の恋人ジューリア、四人の男女の間がこじ
れる。しかしプローチャスは自分を慕うジューリアの心に気付き、
ヴァランタインは身分の壁を乗り越えてシルヴィアとの結婚に漕ぎ着
ける。全体のバランスの悪さから、上演されることも極めて少ないと
いう。
後の『夏の夜の夢』で、よく似た構造の四人の恋愛関係のもつれが
描かれる。
(2) 作劇年代
1594年〜1595年頃。
(5) 雰囲気・テーマ・思想
「じゃじゃ馬ならし」同様、習作時代の喜劇で思想といったものは
読みとれないように見える。ジューリアが男装で恋人の心変わりとい
う出来事に堪え忍ぶ姿は見所かも知れないが、恋心からの親友の裏切
りや、プローチャスが森でシルヴィアを力ずくでものにしようとする
など、いささかグロテスクな場面も見られる。その点では、同じよう
な構造の恋愛のもつれを描いてはいても、その原因を陽気な妖精達の
いたずらに帰した喜劇時代の傑作『夏の夜の夢』の方が、やはり優れ
ていると言えようか。