*1) そもそもこの概念が、近頃その科学的根拠の希薄さを指摘されて
いる精神分析分野から生まれた語であることも、多少の注意を払うべ
きかも知れない。

*2) 『スーパーニッポニカ2003DVD』「アイデンティティ」野家啓一 より

*3) これ以下、同段落の引用は『スーパーニッポニカ2003DVD』
国語辞典機能の項目「アイデンティティ」から引用している。
国語辞典機能には著者署名は無い。

*4) 『スーパーニッポニカ2003DVD』国語辞典機能の項目「エゴ」の
項目に、第二義として「フロイトの用語。感覚の刺激や肉体的要求の知覚
と、身体運動との間を調節する心理装置。自我」とある。また百科事典機
能の項目「自我(春木豊)」には以下のようにある。

<心理学における自我>
……いろいろなものを感じたり、考えたり、行動したりする自分というもの
を自覚するが、この意識したり行動したりする自分の主体を自我という。……
<フロイトとユングの自我>
フロイトの意味した自我の概念は、彼の人格論の一部を構成するものとして
使われている。すなわち、人格は本能的欲求に基づいて行動するイドid、社
会的規範に従って行動する超自我、それにこれらの欲求を統制し、現実の環
境に適応すべく行動する自我から成り立っているとする。……このような自
我は、年齢とともに発達し変容していくし、また文化的な環境によって、さ
まざまな様相がみられる。

*5) 本レポートが「集団アイデンティティ」という語を用いなければ論の
展開に支障をきたすところからも、集団に属するアイデンティティ概念を
一切認めないという立場には無理があると考えられる。唯名論的概念であ
ることを前提とした上で、用いることが無難であろう。ただし「集団アイ
デンティティ」という語がこの概念を指す語として適切かどうかについて
は、別途論じる余地がある。アイデンティティ(=個人アイデンティティ)
と性格が違うのであれば、「アイデンティティ」という語を含まない術語
を考案する方が良いかも知れない。

*6) ここでは講義において紹介された「集団は個人の集合であって、それ
自体を個人を超越する実体としては認めない」という講義担当教官の考え
を踏襲する。

*7) あくまで「想定」である。そもそも社会集団は個人の集合でしかない
と仮定しているので、その集団が持つ性質なるモノが存在するのかどうか、
そもそもこの表現で何を指しているのか、理解しがたい。集団アイデンティ
ティが問題となる多くの場合、すなわち民族対立の場で「民族のアイデン
ティティ」が叫ばれる場合などは、その民族の構成員全員に共通する要素
などほとんど有り得ないだろう。

*8) ここで想定しているのは、たとえば戦中日本に見られた「日本人なら
○○でなければならない」「貴様それでも日本人か」といった類の言説で
ある。

*9) 「仮想された西洋なるものとの落差によって自国の同一性を設定し、
西洋への模倣と反発の力学から自国の歴史を作り出そうとする企ては、ほ
とんどすべての『非西洋』知識人が直面しなければならなかった歴史的な
使命とでも言うべきものであった。……自民族あるいは自国籍の強調は、
対立項の存在を前提しなければ、意味を持たない。」(酒井直樹『日本思
想という問題』)自集団と他集団は同時に成立する概念である。集団Aが
集団Bを一個の集団として認識することと、集団Bが自集団の枠組みを設
定することと、集団Bが集団Aを他集団として認識することと、集団Aが
集団Bに対して自集団を認識することとは、恐らくほぼ同時に生起する。

*10) 講義において示された講義担当教官の考えを、本レポートの論旨に
沿って解釈してみた。なお、この論からは、最小単位としての地域コミュ
ニティにのみ帰属意識を持つ人は(概して知的水準が低いこともあり)特
定の集団アイデンティティに支配されやすいと考えられる。この論は戦間
期日本において東北の農村に右翼的思想が強く根付いたことを、整合的に
説明できる。

*11) ナチスドイツの「ゲルマン人」「生存圏」黒人差別における「白色
人種」「白色人種の優越性」などの言説は典型と言えよう。

*12) なお、これ以下の内容は主に日本の状況を念頭において論ずる。情け
ない事ながら、本レポート執筆のためのリサーチに割ける時間が、複数の
国家の個別的事情を論ずるにはとても足りないというのが、大きな理由である。

*13) 政治参加のコストが高まりベネフィットが低下すると、人々は政治を
基本的に他人任せにし、明らかに不利益を被ると判断した場合にのみ、コス
トのかからない形で反対の意思を表明するであろう。するとデモ・政治集会
などの動員数、投票率などは低下し、その投票行動も基本的に現政権を支持
し、明らかに自己の利益に反すると思われる場合にのみ、対立陣営への投票
や投票のボイコットという形で政治的主張をする、日本に見られる有権者の
振る舞いが帰結されるのではないだろうか。
(日本の有権者の投票行動についてはBradley Richardson著
『JAPANESE DEMOCRACY: Power, Coordination, and Performance』を参考にした)

*14) 本項目について詳しくは添付の参考レポート「現代社会論1課題レポート
(Web掲載自注:都市論・消費社会論レポートを指す)」参照。

*15) ただし完全に切り分けることはできまい。分けて数え上げることが可能なものが、
その根において渾然と混ざり合っているといったイメージになるか。

*16) 松原隆一郎著『消費資本主義のゆくえ』によった。

*17) 松原氏は同書で、これは発展段階ではないと明確に述べている。


<参考文献>
『スーパーニッポニカ2003DVD』小学館 2003
・百科事典
 「アイデンティティ」野家啓一
 「自我」春木豊
・国語辞典
 「アイデンティティ」
 「エゴ」

『人種・国民・階級 揺らぐアイデンティティ』バリバール&ウォーラーステイン
『日本思想という問題』酒井直樹
『JAPANESE DEMOCRACY: Power, Coordination, and Performance』Bradley Richardson Yale University Press 1997
『国土論』内田隆三
『唯脳論』養老猛
『大転換』カール・ポランニー
『消費資本主義のゆくえ』松原隆一郎

<参考レポート>
「現代社会論1(担当教員:内田隆三 2004年度夏学期)課題レポート」拙著