さて、価値についての論考を展開したいのだが、その前にぶつかる巨大な困
難について、あらかじめ考えておかねばならない。これから価値について、そ
もそも価値とは何か、価値は在るのか、無いのか、価値はどこにあるのかと考
えるのだから、現段階では何事にも価値判断を下すわけには行かない。それで
は、価値について論じました、はい、きちんと論ずることができました、とい
う判断を、どうやって下したらよいのだろう? 論理的に正しければ、きちん
と論じたことになる、とは言えない。論理的であることが良いことであるとい
う、それ自体ひとつの価値判断によって、価値論を基礎づけるわけには行かな
い。そもそも、なぜ価値について論じなければならないのか、論じた方がよい
とか、論じなくてよいとか、そんな判断すら下せない。
この困難に立ち向かい、克服することを、私は諦めているのだと告白せねば
なるまい。論理に依拠することの正当性を主張する上で、論理に依拠すること
はできない。しかし論理に依拠せずに物事を論ずるとは、一体どういう事なの
か。非論理的に論考せよとは、いったい何をどうしろということなのか。まっ
たくお手上げである。
当面、この問題は回避しておくより他ない。とりあえず、論理に依拠して価
値について論じてみよう。それで問題があるのなら、その都度考えていこう。