悩みを抱えることを恐れたくはない。
悩みを語ることに躊躇したくはない。
まず強調しておきたい。 悩みは些事にこだわる愚かな心の表れでもなければ、 問題を解決できない鈍い頭脳の表れとも限らないという事を。 忌避すべき魂の座礁などではなく、 内面における越えがたい壁との対峙、 そう、単に対峙であるに過ぎないのだ。 恥じることも避けることもない。単に対峙であるに過ぎないのだ。 ひとより多く考える者は、ひとより深く考え悩み、 ひとより多くを思う者は、ひとより深く思い惑う。 そうして思想を鍛え、情感を育む。 哲学が生まれ、詩が羽ばたく。 強く、美しく─── 惑い乱れた表現は、心の醜さを表しはせぬ。 鋭く脆い感性の、その震える感性が記録した、 あまりに多く、詳細に過ぎる、 現実の影の醜さの、その対立を、軋轢を、 すなわち矛盾を写すに過ぎぬ。 そしてこれこそ人が語る、 誠をもって語ること、 論理には拒否され到達し得ぬ地平、 真実─── 悩むべき事があるのなら、敢えて逃げはすまい、 たとえ夜の底を這いまわろうとも、 孤独の川に流されそうでも、 死の影を見ようと、 たとえ道のりが険しくとも、 それが定められた道のりであれば、 魚は川を遡行し、鳥は山々を越えて羽ばたく。 より高く、山々を越えて─── 悩むことを、恐れはすまい。 その呻吟の後に、豊かな地平が開かれるなら、 夜の底を這いまわろうとも、 たとえ暗い夜の底を這いまわろうとも。 |